導入前の課題現場と本部とのやりとりが音声であり、伝達に時間を要する上、電波状況によっては不明瞭で伝わりづらい全体を把握しているのは本部のみであり、現場隊員も含めた情報共有化が難しい地図や台帳、GPS 端末等を携行する必要がある導入後の効果携行地図から路網や地点情報をデジタル化し、LivMap の背景地図として利用可能に隊員の位置や軌跡を、指揮本部のみならず入山隊も含めリアルタイムに全体把握が可能になることで、迅速かつ自律的な意思決定が可能に台風10号では、市内各所の被災状況や、河川の増水状況・水位を災害対策本部に連携する際に活用能登半島地震では通信網が寸断された状況においても活用。通行可能ルートの後続隊への伝達や、家屋毎の安否確認作業などに活用山岳救助事案発生時と、大雨等の災害時における、連携に関する課題愛知県の東三河地域で第2位、18万人の人口を擁する豊川市は、その北側に「本宮山」を擁します。 豊川市、新城市、岡崎市の3市をまたぐ本宮山は、東三河で最も高く、登山客に人気の高い山です。秋の行楽シーズンになると非常に多くの登山客が訪れることもあり、道迷いや滑落事故なども増加します。 豊川市消防署は、登山客の皆さまにもしものことがあった際にも迅速に対応できるように日頃から訓練等をしていますが、山岳救助事案が近年増加傾向にあることを鑑み、より迅速かつ効果的に現場状況の把握・共有化を可能にしたいというニーズを持っていました。また、豊川市では 2023年6月2日に観測史上最大の大雨が降り、各所で内水氾濫や河川の越水が起きたことにより大きな被害がありました。 この時に消防署は市役所の危機管理課や河川管理などの担当者と、増水状況や市内の被災状況などを共有する必要がありますが、その際の連絡を効率化・迅速化する必要がありました。こうした課題にアプローチするため、当消防署では本年度から LivMap を本導入しております。 豊川市とスタートアップとの連携は、これが初になります。地図の携行や音声による伝達の煩雑さ、隊員の習熟度向上の難しさ山岳救助事案発生時には、以下のような課題がありました。入山隊と現場指揮本部とのやりとりが音声であり、伝達に時間を要する上、電波状況によっては不明瞭で伝わりづらい全体を把握しているのは指揮隊のみ本宮山内での行動に必要な携行地図や山岳台帳に加え、GPS端末や無線を携行する必要がある紙の地図での位置把握には一定の熟練を要する上、夜間の救助作業ではさらにそれが難しくなる山岳救助事案の発生件数は年間数件であり、新人の教育にも一定の労力を要する。 登山道はいくつもあり、マイナーなところで道迷いが発生した際に対処に苦労する可能性がある。農務課から本宮山の林道の工事情報をメールで受け取っているが、その情報を職員全員が把握できていない可能性がある119番通報が入り山岳救助案件だと分かると、いくつかの隊が出動します。 山に入る人以外にも、指揮車両で指示を行う人、安全管理をする人、救助活動をする人などにわかれます。入山隊員は以下のような登山道・緯度経度・目標物等を記した地図、山岳台帳、GPS 端末を携行しますが、これらを用いた位置把握と伝達には一定の熟練を要する上、雨天や夜間の行動においてはさらに把握が困難になります。また、隊員間や指揮本部との連携を無線などの音声によって行っているため、現状の伝達に時間を要する上、無線の電波状況によっては不明瞭で伝わりづらくなります。さらには、現場指揮本部は全体感を把握できるものの、入山隊はそれが難しいといった課題もありました。路網を背景地図として搭載。山岳救助事案での活用や新人教育でも効果を発揮このような課題を解決できる可能性を感じ、豊川市消防署では今年度からLivMapを導入しております。 導入にあたり、以下のことを行いました。携行地図の PDF から路網や地点情報をデジタル化し、地理院等高線の上に重ねたものを背景地図として利用可能にした有志の隊員で本宮山登山を行い、その際に必要な分岐路や目標物などの写真を撮影して LivMap 上の地点として登録した以前のように紙の山岳台帳を頼りに入山する場合、位置確認などに不安が残りますが、LivMap の背景地図として登山道が入ることで、ルートに沿って登れていると確信でき、安心感が増しました。 また、位置を共有中の隊員の位置や軌跡も把握可能になりましたが、これらを指揮本部のみならず、入山隊も全体把握が可能であるということは大変有益です。さらに、7月はじめに本宮山で起こった道迷いの事案においては、実際に隊員が LivMap で位置情報を共有しながら入山し、要救助者を発見後、上空が見えること(ヘリからのワイヤーによる降下、救助が可能であること)を写真で伝える、といった形で、リアルタイムでスムーズな情報共有化が可能になりました。新人教育の面においても、良い効果を期待できます。 紙の山岳台帳を用いる場合、「これが見えたら右に曲がる」といった形で目標物などをできるだけ覚える必要がありましたが、LivMap では地図上に写真が落ちているので、予習が簡単になる上、確実な山岳行動ができるようになるまでの期間を短縮することができそうです。決め手は路網を掲載した背景地図と、DMS形式での緯度経度表示に対応して頂いたことLivMap を導入する決め手になったのは、携行地図を背景地図として搭載して頂いたことに加え、その UI からなんとなく使い方を想像でき、スムーズに隊員皆が使い方を理解できたことが大きいです。さらには、豊川市はヘリを持っていないため消防航空隊のヘリと連携する可能性があり、その際の位置伝達を DMS 形式(緯度経度の分・秒を60進数で表す形式)で行っていますが、要望を出したところ、この表示形式に対応して頂きました。 先述した7月の山岳救助事案において、要救助者の位置をヘリに伝達する際に、実際にこの機能が使われました。能登半島地震における活用また、LivMap は元旦に発生した能登半島地震においても活用させて頂きました。発災後に多くの派遣隊が組成されて能登半島入りしましたが、豊川消防からも、当時 LivMap の実証実験を行っていたメンバーが派遣隊になりました。まだ携帯通信網が回復していない状況下で現地入りし、途中で回復しましたが、その状況下においても以下のような形で活用することができました。携帯通信圏外においてもデジタル地図を確認し、その上で地点のメモや写真を残す軌跡を記録し、通行可能ルートを後続隊に伝達したり、自らが帰還する際に利用する安否確認作業で、既に往訪した家を共有化する1月はまだ実証実験中の期間であったため、小隊内での情報共有に留まりましたが、隊を超えた連携などにも有効に利用できる可能性を感じます。また、安否確認作業では隊毎に紙地図が渡されましたが、雪で濡れてしまいました。今後はこのような手法もデジタルに置き換わっていくと良いと思います。今後、南海トラフ地震なども想定されていますが、LivMap は管内が被災し、受援側になった時に、派遣隊の方々に情報を伝達するツールとしても可能性を感じます。台風10号における、危機管理課等との被災状況の共有化LivMap は、今年8月末に上陸した台風10号の対応でも利用しました。 従来的な災害対応においては、以下のような課題がありました。職員間のリアルタイムでの情報共有が難しく、結果として同じ被災箇所に複数の職員が現地確認に行く等の無駄が生じる被災写真を事務所に帰って整理する等の手間と時間が発生する大量のメッセージや写真が流れ、状況把握が難しい災害レベルに応じて各課から職員が非常招集されるが、その際の課を超えた情報伝達が大変災害対応専用のシステムは、普段使わない割に導入コストが高額である(いつ使うか分からないものに対し)防災訓練などで習熟度を上げておく等の取り組みが普段から必要になるこうした背景から、災害時に市内各地の被災状況の集約を効率化し、判断を迅速化するためのソリューションが求められていました。豊川市では、消防と農務課での LivMap 導入後、危機管理課・道路河川管理課・水道整備課などに範囲を広げる形で、情報共有を行うテストを行っていましたが、ここに台風10号が来て、8月29日から9月2日にかけて大雨になりました。消防が市内を巡視し、各所の被災状況や、河川の増水状況・水位を報告しますが、この際にLivMap を活用しました。やはり現場の危機感は、写真等の方が伝わりますし、「現場ではとにかく写真を撮り、少し後に落ち着いて地図上に自動で取り込む」という流れで、被災・増水状況の共有化や報告にかかる時間と手間をかなり削減できました。LivMap を用いることで、特に消防と災害対策本部との情報共有が非常にスムーズになる可能性を感じています。今後について豊川市では消防以外にも農務課でLivMapを導入済みであり、加えて上下水道管理・道路河川管理・危機管理の担当課でLivMapをテストしていますが、災害時に各課から非常招集される職員との連携においては、上述した普段からの LivMap の利用用途がある課とは、防災訓練などで習熟度を上げる必要性が無くなる可能性もあります。 ひいては、高価な災害対応専門のシステムの導入を不要にできる可能性もあります。世の中に専門ツールは多くありますが、フェーズフリーなツール、即ち「普段使いのものがそのまま災害対応にも役立つ」ツールは多くありません。 他方、 LivMap は、汎用かつ安価であるという点や導入の簡便さから、そのような運用ができると考えています。 各課の普段の業務効率化に加えて、災害時においても課や組織を超えた連携が可能になっていく可能性を感じます。連携は豊川市内のみならず、本宮山の救助活動では40丁目以上の事案で新城市と連携しますし、前述のように消防航空隊のヘリとも連携します。このような時に、組織横断的に LivMap 上で行動を共有化できると、さらに利便性が高まると思います。このような形で、引き続きより広い用途での活用可能性を探っていきたいと考えています。今後に期待しております。